アイナメ FISH WORLD トップへ

1.貪欲だけど、やさしい(?)一面も

特に東北では大型が狙えるが、関東でもこの時期、船釣りや投げ釣りで狙う好ターゲット。かけるとギュンギュンと引きが強い上に、身がきれいな白身でくせもないため、専門に狙う人も少なくない。最近は、ワームなどを使ったルアーターゲット(ロックフィッシュの主要対象)としても人気が高まってきている。

1)貪欲で積極的な捕食行動

アイナメの凄いところは、積極的にエサを探し回り、他のサカナが食べているものさえ略奪してしまう貪欲さだろう。

以前、宮城県の女川の海を潜った際に凄い現実を見てしまった。

岩盤と砂地とが入り混じった海底には、小型のアイナメはもちろんのこと、ビール瓶ほどの太さをした60cm近い超弩級クラスの魚体のアイナメが、それこそ点々と海底に鎮座していた。基本的にダイバーの接近をあまり好ましくないと思っているのか、ボクが近づこうとするとゆっくりとその場をかわすように移動を開始する。うろうろと周囲を徘徊しながら、こちらの様子をうかがう。ボクの偏見かもしれないが、その視線にはちょっとズル賢さがよぎったような気がした。

さて、海底を探索しているうちに、マダコの巣を発見。ちょうど母ダコが自分の生んだ卵を巣の中で守っているという格好の撮影シーンだった。タコの卵というのは、白い直径2mmほどの卵が房状に連なり「藤の花のような形」になることから、「海藤花(かいとうげ)」と呼ばれている。その卵をまるでボクサーのガードのように、腕を下から上に曲げるように構えて外敵の襲来に供えつつ、一方では海水を例の口を尖らせたような漏斗で吹き付け、常に新しい海水が卵の周囲を循環するようにと懸命の子育てをしていた。

その姿を撮ろうと、タコの手前にあったやや大き目の岩をすこし動かした。海底の砂が舞い、ほんのわずかな濁りが生じた。

ふと気づいて回りを見回すと、まるでハイエナのように目をギラギラとさせた大小何尾ものアイナメが集まってきていた。濁りや音に対して敏感なのである。おそらく側線が5本もあることが水中での状況把握に大いに役立っているのだろうし、基本的に目もいいのだろう。

また、濁りや音に対しても興味を持つ好奇心の強さもうかがえる。ある場所に部分的な濁りが生じていれば、何かが何かを捕食した形跡であることが多く、そんなときはなにかおこぼれに預かれるということをアイナメは経験的に知っている。だから集まってきたのである。

母ダコの抱卵シーンを撮影しようと、もう一度その岩の位置を変えようとしたとたん、3尾のビール瓶ほどのアイナメがタコの巣に突入して卵をほおばった。タコは負けじと防御するが、今まで盾にしていた岩がない上に3尾が同時に攻撃を仕掛けるものだから卵を奪われる。その背後から第二弾のアイナメ隊が待機していた。

これはまずいことになった。ボクが撮影しようとして岩の位置を動かしたために、タコの巣があらわになってしまい、アイナメにとって大ご馳走なタコの卵が露呈してしまったのである。ボクは足にはいていたフィン(足ヒレ)をはずし、海底でそれを振り回してアイナメを追い払う。

しかし、アイナメはカラスのように大胆不敵で、追い払っても追い払ってもしつこく卵をかすめとろうとする。ようやく全部のアイナメを追い払ったときには、ボクもすっかり息が上がっていた。母ダコも呼吸が荒くなっていた。2枚ほど写真を撮らせてもらってから、岩を元の位置に戻した。アイナメの貪欲な一面を垣間見たのと同時に、自然界の厳しさをまざまざと感じた瞬間だった。

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アイナメは泳ぎ回ることよりも、海底に鎮座しているようなケースが多い。ときどき気が向くとあたりを徘徊する。
とにかく好奇心が強い。おそらく5本もある側線というセンサーを最大限に利用し、それと同時に左右別々に動く目で周囲を探る。

2)アイナメの世界も男はつらいよ

ちょうど今頃の時期、関東ではアイナメの産卵期である。アイナメのオスは、この時期、婚姻色を呈して全身が黄色というか山吹色に近い体色になる(だから山吹色のアイナメが釣れたら、それはオスであり、なんか気持ち悪いサカナではないので大切に扱うように)。

メスは、芝のような毛足の短い海藻の生えた岩盤に卵を産む。と同時にオスは放精するのだが、メスはその後どこかへ姿をくらましてしまう。産んだ卵をおきざりにしてしまう実に薄情な世界である(ほとんどのサカナが生んだら生みっぱなしではあるのだが…)。

残されたからといってオスが卵を守る使命を受けてしまったわけではないのだろうが、産みつけられた卵を外敵に食べられてしまわないようにガードする。ちょうど産み付けられた卵塊の上もしくはすぐ脇に鎮座し、周囲をにらみつけている。卵を守るときはほとんどその場でしか行動しないので、エサはとりにいくことができない。目の前に流れてきたものやたまたま近くで見つけたものしか口にできない。相当腹が減るようである。

だが、ときには本気でけんかして傷を負うほどまでに真剣に守り続ける。本当に気持ちが優しいからなのかは疑問だが、見ていると父性愛のように思えてしまうから不思議である。ただ、あまりにもお腹が減りすぎてしまったような場合は、どうも何粒かの卵を失敬して食べているようなのである。

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産卵期になるとオスは山吹色の婚姻色を呈する。
また産みつけられた卵をカラダを張って守る。
このアイナメは、おそらく格闘して口を負傷したのだろう。
ちなみにアイナメの下のグリーンの粒がアイナメの卵である。

3)ブラクリ釣りの秘密

特に船釣りでのアイナメ狙いでは、ブラクリというオモリに綿糸のハリスがつけられたものを使うことが多い。これはアイナメの住んでいる場所が起伏の多い岩礁帯であることが多く、そこを狙う際の根がかりしにくさが第一の秘密であろう。また、多くのブラクリの色が赤く塗られているが、これも水中で目立つためと考えられる。

ただ、水中での赤い色は水深5mでは濃いグレーに、10m以深では黒く見える。これは水の中に入ると光のスペクトルの中から赤い色から順に色が失われていくことによる。

だが、黒い色というのは海中では意外と目立つものである。特にバックが海底ではなく海水があるようなシチュエーション(海底にいるアイナメからしてみれば、視線のバックが海であることが多い)では、強い色のコントラストがあるため、サカナの目につきやすい。白も強いコントラストを生み出すからいいかもしれない。

海底をたたくようにブラクリを上下してやれば、好奇心の強いアイナメはそれを見つけて飛びつくはずである。ブラクリの操作にはあまり激しいまでのアクションは必要ないが、かなりメリハリのあるアクションが釣果を呼びそうなことは確かである。

※釣魚考撮より移設