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1.砂地のマジシャン

スミイカ釣りといえばスミイカテンヤ。テンヤと名のつくものは他の釣具でもいくつかあるが、ハリとオモリとが一体化され、ハリの軸の長いものをさすらしい。スミイカの場合は、爪を切った活きのいいシャコをテンヤにくくりつけ、海底をコトコトとたたいたり、ときにはシャクって探り、イカが乗るのを待つ。しかし、このテンヤという道具、誰が最初に考えついたのかは知らないが、海に潜ってスミイカを観察してみると、いかにテンヤを使った釣り方がスミイカの生態を熟知したものであるかということに驚かされる。

1)スミイカは海底に潜む

イカの仲間というと、代表的なのはヤリイカやスルメイカ、マルイカといったたたんだ傘のような体型をしたもの。それらは群れを作って行動し、エサの捕食も小魚を狙って集団で行うものが多い。その中で、アオリイカやスミイカ(正式名称:コウイカ)などは、体型もずんぐりとしていて、行動パターンもヤリイカなどとはまったく違った行動をとる。まず、アオリイカの場合は、まだ小さなときやまれに群れを作って行動することもあるが、スミイカはほとんどの場合、単独で行動する。エサを求めて積極的に泳ぎ回るというよりも、エサを待って、目の前にきたところを捕食するという感じだ。この辺はヤリイカやスルメイカとはまったく行動パターンが異なる。

スミイカは内湾の砂地、または砂泥底を好んで棲む。こういったところが好きというよりも、エサとなるエビやシャコがそういったところに多いというのが原因だろう。

ボクが水中で何度か見かけたのは、砂地にちょうどヒラメが潜むようにスミイカは着底して、砂をかぶっている様子だ。当然、海底の色に自分のカラダを似せるから、ほいほいと見つかるものでもない。しかも砂をかぶっていたりすることが多いので、ゲリラ戦のエキスパートであるグリーンベレー隊も顔負けのカムフラージュである。ボクが見つけたときは、もしかしたら昼寝をしていたのかもしれない。どうもエサを待ち受けているにしてはあまりにもボォーッとしすぎている感じだった。ヒラメも同じように砂をかぶって海底と同化するが、意識は非常に強く、エサが通ると眼をギラつかせて相手の隙をうかがうし、ボクが近づけばある一定以上の距離まで近づけば逃げる。だが、見つけたスミイカは、そんなギラついた感じはまったくなかったし、近づいていっても逃げなかった。よほど自分のカムフラージュ術に自信があるのか、意外と昼寝しているときぐらいまで殺気を消し、エサが完全に射程距離内に入るのを待ち受けているという考え方もできるだろう。

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このとき見つけたスミイカは、海底の砂地に腹ばいになり、砂をかけて隠れていた。
どうも昼寝をしているような感じでもあり、ギラギラと獲物を狙うということではなかった。

2)意外とミスも多い

スミイカの捕食シーンは、一度だけ水中で見たことがある。このときはもう小さなエビに対して追撃体勢に入っていた。エビはするするするっと海底を滑るように早足で動き回っていた。スミイカは海底スレスレのラインを泳ぎ、完全にこのエビを目で捉えていた。次の瞬間、腕の中の触腕と呼ばれる伸びる腕が2本、目にも止まらぬ速さで伸びたが、微妙に届かなかったのか、エビの動きが鋭かったのかミスをした。空振りだったのだ。触腕は伸びきったバネのようにだらりとしていたが、また次の瞬間には腕の中なのか体内へなのかはわからなかったがきれいに格納されていた。スミイカはそのエビを諦めて次の獲物を探しているようだった。しばらくして再び触腕が伸びた。海底の砂がちょっとだけ舞った。今度は触腕の先に小さなエビを捕らえていた。すぐに口に持って行き、完全に抱き込んでしまった。おそらくスミイカにとっても、捕らえたエビは逃がすまいと必死なのだろう。エビはエビでばたばたと暴れるだろうし、エビも棘のような部分がカラダにはいっぱいあるため、必要以上に暴れられるとイカも傷つく。それを防ぐために抱き込んで動きを封じ、おそらく鋭利な歯で噛みついて息の根を止めるのだろう。スミイカは、そのままゆっくりとその場を去って行った。

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獲物の小さなエビを見つけ、狙いを定めているコウイカの子供。
何度かミスはしたものの、最後にはエサを捕らえることができた。

3)スミイカテンヤがエビの動きを演出する

この一連のスミイカの捕食行動を見る限り、スミイカは海底のエサを見つけ、狙いを定めて接近し、触腕を伸ばして捕らえる。捕らえた後は、抱きついて相手の動きを封じ、さらにはかみついてエサを殺すか、完全に弱らせて食べる。このプロセスの中でスミイカをひっかけるには、いかに本物のシャコやエビのような動きを演出し、エサのシャコに抱きつかせるかにある。

エビやシャコはけっして派手な動きはしない。どちらかというと前述のように海底を滑るように移動し、すぐに海底の砂に潜る。となれば、たまにシャクってスミイカにエサの存在自体をアピールすることはあっても、基本的にはコトコトと小突く感じでちょうどいいはずなのだ。船も潮で流れているとすれば、テンヤはコトコトと細かく揺れながら海底を滑っている。間違いなくそれは本物のエビやシャコの動きに酷似しているはずなのだ。

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スミイカは海底ギリギリのラインを泳いでエサを探す。探し回るというよりは、ある場所に潜んでエサのエビやシャコを待ち、見つけるとそっと近づいて捕食しようとする。
※釣魚考撮より移設