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2.簡単なようで、意外と奥が深い

先日、船でカサゴ狙いに行った。カサゴは簡単に釣れるから…、そう考えていたのが間違いだったのかもしれない。もちろんまったく釣れなかったわけではなく、そこそこは釣れたが、竿頭との差が大きすぎた。その日の竿頭は47尾。サイズはまちまちだったが、明らかにボクの釣るペースの倍は釣れていた。もちろんこの方はカサゴ釣りに通う地元名人。ボクは他の釣りをしながら、年に一度か二度カサゴ船に乗る。ボクの釣果はかろうじて20尾越えた程度。とはいえ、この歴然とした釣果の差。この差はなんだったのだろう?

1)ぼろぼろになったエサがいい

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カサゴはがっついていて、エサがあればすぐに喰うというイメージがある。だが、実際にはエサを吟味し、喰えると確認してから喰う。その点、ベラなどは喰える喰えないは後回しで、いきなり喰ってしまうもの。
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意外と警戒心の強いカサゴであるが、その警戒心が甘くなる瞬間がある。それは同じエサを仲間のカサゴも狙っているときだ。このときばかりは我先にとエサを喰いにくる。しかしなかなかそこまで魚影の濃い場所もなかろう。

まずカサゴのいるところ。そこは岩礁帯で、根の起伏が激しかったり、ごろた石などのある場所。つまり彼らがいくらでも隠れられる場所のあるところだ。たいがいそんな場所で、カサゴは岩の上だったり、ときには岩の影だったり、そんな場所でエサとなるものがないか周囲に意識をはらう。エサとなりそうなものを見つければ、ゆっくりと泳いで近づき捕食する。

カサゴには、いかにもがっついているイメージが強く、そこにエサを落としてやれば必ず喰うような気がする。

だが、あとになって思い出したのだが、カサゴはいきなり喰いつくことはしないのだ。

去年、西伊豆の海に潜り、ちょうどカサゴがいたので、捕食行動を監察したことがあった。そのときのエサはオキアミだったのだが、オキアミを見つけると、まずは近づいてエサを確認する。喰えると思ったら、まずエサを口でくわえ、それからおもむろに飲み込む。この一連の動作はボクたちが想像するよりもはるかにゆっくりだ。

だが、喰い方がかわるのは、他のカサゴがそばにいて、お互いに同じエサを狙っているときだ。このときはすばやくエサを奪い、相手より先にエサを捕食しようとする。その日の船釣りでもそんな事態になっていれば、簡単に喰ってきたのであろう。おそらく点々といるカサゴを拾い釣り。いくら魚影が濃いといっても、エサを奪い合いするほどカサゴがひしめき合っている場所でもなかろう。だから、カサゴもゆっくりとエサを見て、旨そうなものに喰いつく。そんな余裕があったのかもしれない。

そこでそのよく釣る人の釣り方を観察してみた。誘い方に特に違いがあるわけでもない。ただひとつ違うのが、ボクの場合はアタリがあってもかからないときがあったことだ。ボクのほうは喰いが浅い? 何かが微妙に違うはずなのだ。

エサが違う? そんな意識で見てみると、その人の使っていたエサは、ボクが使っているのと同じ、船宿で供給してくれたサバの切り身の小片なのだが、カサゴに突っつかれてボロボロになったままをつけていた。聞いてみると、必ずその日の当たりエサというものがある。それがどれなのかはカサゴに聞くしかない。積極的に喰ってくるものがその日の当たりエサ。それを見つけたら、ボロボロになって最後になくなるまで使い続けるのだそうだ。ボクは、喰われてボロボロになったら、わざわざ新しいのに付け替えていた。その違いが大きな差として表れたようだ。

他のカサゴが喰ってボロボロになったサバの切り身。おそらく海中でヒラヒラとして、それがカサゴを誘う。しかもボロボロになっている分、カサゴも警戒心が薄れて、それが喰い方の差になって出ていたようである。新鮮なエサばかりがいいというわけでもない。

2)大きなアクションは逆効果?

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カサゴは意外とかわいい顔をしている。それは眼がくりっとしていることからなのだろう。しかし、この大きな眼は、しっかりとエサを見抜くだけの眼力を持っている。カサゴを甘く考えていると、逆に痛い目に遭うものだ。

後になってみると、釣りはその日の反省点がぼろぼろと出てくるもの。ルアーやソフトルアーなら、カサゴに対するアピールを強くする意味で、大きなアクションがカサゴの捕食行動を導くこともあるだろう。だが、エサで釣っている場合は、大きなアクションがかえってカサゴを引かせてしまい、それが喰い気を消極的にしてしまうこともある。

ボクは釣果が思うように上がらなかったことで、頭がカッカし、その焦りがすべて逆効果を生み出していたようだ。冷静に、海の中で見てきたことを思い出しながら釣りしていれば、釣れないときになぜ釣れないのかが、もう少し幅広くイメージできていたかもしれない。

カサゴは、その大きな眼でエサとなるものをよく見る。前にも一度触れたが、昔、ハリの沈み方を調べる実験をしていたところ、金バリがキラキラヒラヒラとしながら落ちてくるのにカサゴが興味を示して寄ってきた。だが、何度かそれを見ているうちに、カサゴはこれは喰い物ではないと見抜き、見抜いたあとはまったく興味を失って、見向きもしなくなる。

また、エサの場合も、よほど喰い気が立っていない限りは、エサが大きなアクションをすると、びっくりして引いてしまう傾向がある。特に喰い気満々のとき以外は、喰えるエサならとりあえず喰っておこうかなぐらいの非積極さでエサを見る。そのときに一度びっくりとしてしまうと、そのエサに対して警戒心を抱き、それが薄れるまでには相当の時間を要してしまう。

この日、荒い根を攻めていたので、根がかりしないように、着底と同時に大きくサオをあおって底だちをきちんと取り直していたのだが、これが実は逆効果を生んでいたのかもしれない。この日のカサゴは、潮の具合も影響してか、積極的に喰うという感じではなかった。そんなときにエサが落ちてきて、そのエサに興味を示したら、いきなりエサが舞い上がっていたのでは、警戒心を呼んでしまっていたのかもしれない。

たかがカサゴ、されどカサゴ。確かにカサゴは釣りの入門に適したサカナではあるが、釣りはやはり奥深い。なめてかかると、逆にサカナになめられてしまうのだ。

※釣魚考撮より移設